2026年大洋村別荘事情
「大洋村の別荘」と聞けば、知っている方の多くは朽ち果てた廃別荘を想像すると思うが、中古別荘などの不動産市場においては、当然そんな廃屋は主流の商品ではない。さすがに朽ちた別荘はまともな売却は無理としても、格安物件には格安物件なりの根強い需要はあるとは言え、実際の売れ筋は、安くても100万円台からせいぜい数百万円クラス、築20~30年程度の中古別荘だ。率直に言って、木製電柱の輪切りを基礎に使っている初期の建売別荘を無理にリフォームするくらいなら、この程度の中古住宅のほうがずっとコスパはいいと思う。
ただ、数十万円クラスの古い建売別荘を欲しがる人は、もちろん予算的に数百万円でも厳しいという方もいるだろうが、すでにリフォーム済みの家が欲しいのではなく、ある程度は自由に自分の裁量でいじれる「素材」を求めているという側面もあるだろう。最近は田舎に行けば格安の中古物件など珍しくもないが、大抵は昔ながらの大きな家だし、古いとは言え大工が仕上げた日本の民家である。

鹿島臨海鉄道大洋駅近くの住宅地。「ミニ別荘」のイメージが強いが、実際の主流はこうした住宅街の戸建である。
一方で大洋村の建売別荘は、これも大工が仕上げたのは間違いないにせよ、言ってみれば小屋のような造りで、大胆に造作を加えてもあまり心理的抵抗がないというか、価格的にも、また材質的にも、遠慮が要らない分、自由度が高い面はある。それでも快適な住まいにするには相当手がかかるとは思うが、水道や浄化槽をそのまま流用できる(これもこれで様々な問題はあるのだが)利点はある。
ただしこの1970年代~80年代頃の建売別荘は、近年急速にその数を減らしつつある。以前は大洋村の物件情報を見ると、大体、少なくとも1戸はこの建売別荘が数十万円程度で売られていて、ある意味それが大洋村の不動産市場の象徴ともなっていた。しかし、当時の建売別荘は材質も粗末で、床面積も20~30㎡程度と狭いので、DIY派以外からのニーズは乏しく、だからこその数十万円という価格だった。

大洋村のイメージを決定付けた初期の建売別荘。
ところが新型コロナウイルスによる行動制限が行われた数年前、一時的に大洋村においてその手の格安物件が払底してしまったことがあった。ご記憶の方も多いと思うが、あの頃は感染予防としてのリモートワーク(テレワーク)が普及し、別荘地がそのテレワークに最適だとか、三密を避けられるとか何とかでにわかに注目を集めたことがあった。大洋村もその例に漏れず、2020年6月2日付の日経ビジネスには『バブルに沸いた夢の別荘地、“大洋村”に日はまた昇る』(有料記事)と題した特集記事が掲載されている。
「茨城県南東部の鹿島灘沿いに開発された別荘地「大洋村」が、コロナ禍の影響を受けて再注目されている。バブル期に建てられた中古物件をリノベーションして、都心から離れたセカンドハウスとする若い世代が増えているのだ。「民泊にも転用できる新しい別荘での暮らし方は、アフターコロナの生活様式の1つの解を示している」とのことだ。今読み返すと何となく懐かしい論調である。
この記事でインタビューに応じている鹿嶋市の不動産会社「大和ハウジング」の社長は、問い合わせの数が前年の同時期と比較して2倍に増えたと語っている。実際この時期、大洋村の物件情報を見ても、コロナ前とは比較にならない強気の価格のものが多く、それでも成約したのか、次々と新着物件が登場しては消えて行った。コロナ以前なら50万円でも躊躇するような初期の建売別荘でも、150万円くらいの値付けがされていたと思う。

他の別荘地同様、リモートワークの拠点として俄かに注目を浴びることになった。
ところがその後、コロナ禍が明けてからは、あれほどもてはやされていたテレワークを取りやめる企業も増加し、別荘地への移住を推奨するような記事もすっかり見かけなくなった。例えば軽井沢などは、コロナが明けても需要が旺盛で、外資と思われる企業が土地を購入したり、新規のホテルを開業させたりしているケースも散見されるが、こと大洋村に関しては、物件の問い合わせも激減してしまったと伝え聞く。
僕が今住んでいる大洋村の家は、前述の大和ハウジングが売主として、当初は250万円で販売されていたものだった。ところが応対した担当社員の方が語るところによれば、令和6年度末を迎えるにあたって、長期在庫と化している物件を処分することになり、それで当初の売り出し価格の半額である125万円というセール価格となったそうだ。確かにその時同社が発行していた広告チラシには、他にもいくつもの値引き物件が掲載されていた。担当社員の方は、お客からの問い合わせが減ったとまでは話していなかったが、多くの在庫を値引きせざるを得ないということは、つまりそういうことである。

反響が鈍く、半値の処分価格で売られていた僕の自宅。
そのため最近は大洋村の物件情報を見ていても、むしろコロナ前よりも安くなっている印象が拭えない。一般の物件サイトに掲載されるような物件情報というものは、そもそもサイトに出ている時点でお買い得とは言えない売れ残りだとはよく言われるが、それにしても、別に割高とも思えない物件が、数か月経っても成約する気配もなく掲載され続けている模様を目にすると、なるほど確かに需要は大きく減退してしまったのかと思わざるを得ない。
このような状況の中、以前は格安物件の象徴でもあった初期の建売別荘は、すっかり市場の外に追いやられてしまった印象がある。コロナ前の時点で、もうこれ以上の値下げは難しいレベルまで落ちていたのだから無理もない。最近は、いわゆる負動産を有償で引き取る「引取業者」も大洋村の物件を扱っていることがあるが、その売値はわずか1万円という事例も見られ、まことに厳しい。
元々初期の建売別荘は地元業者も基本的に仲介は引き受けず、処分を希望する持ち主から、業者が1万円や5万円という価格で引き取って、残置物などを撤去したうえで数十万円で売り出していることがほとんどだった。今やそれも難しくなり、逆に所有者がお金を支払って処分しているという状況だろうか。

1万円で売られていた建売別荘(2026年2月上旬・アットホームより)
一方で、もはや売り物にもならない朽ち果てた建売別荘は、近年は解体の動きが顕著である。最大手の管理会社も、今は別荘地内の景観や環境を乱すような荒廃別荘は、無理に売却するのではなく所有者に解体を促す方針を取っているらしい。大洋村のような地価の安いエリアで、上物を壊して更地に戻すというのは、本来なら絶対にやってはいけないセオリー違反なのだが、そうはいっても、倒壊寸前の別荘をそのまま残したからと言って売りやすくなるわけでもないだろう。
ましてや初期の建売別荘を、数百万円もの費用を投じてリフォームする合理性もないので、地元の仲介業者も、すべてきれいに解体して廃材も撤去した状態の更地であれば引取の相談に応じることもあるようだ。
そうでなくとも、築年数を考えれば、圧縮ボードやベニヤ板で乱造された建売別荘は、その多くがとっくの昔に耐用年数を迎えているはずだ。また、誰も手入れをしない別荘地は年々雑草や篠竹が繁茂し荒れ果て、すでに藪の奥深くに埋もれ、真冬でもその姿を望めなくなっている建物も多い。
大洋村の別荘開発史に関心を寄せる僕としては、建売別荘が年々数を減らしていく現状は寂しくもあるが、こればかりは年月の経過に起因するものなので如何ともしがたい。おもちゃのような三角屋根のミニ別荘が立ち並ぶ大洋村の光景も、次第に過去のものになりつつある。

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