【取材メモ】区分ホテル「ものぐさの宿花千郷」の経営破綻

露天風呂の工事代金をクラウドファンディングで集めたまま倒産して話題になった、栃木県日光市・鬼怒川温泉の「ものぐさの宿花千郷」の取材メモ
吉川祐介 2026.04.09
誰でも

4月3日、X(旧Twitter)において、栃木県日光市の鬼怒川温泉にある観光ホテル「ものぐさの宿 花千郷」の破綻がにわかに話題になった。クラウドファンディング代行サイト「CAMPFIRE」で露天風呂の建築資金を募り、リターンとしてその完成した露天風呂を利用できる宿泊券を配布しておきながら、実際には2年が経過しても露天風呂は完成することがないままホテルが休業し、自己破産の申請に入るというものだった。

クラファンに参加し、リターン品の宿泊券を受け取ったもののなかなか露天風呂が完成せず、仕方なく露天なしの部屋を予約した支援者の一人が、破産管財人と思われる弁護士から連絡を受け、非難の声を上げた投稿が大きく拡散することになった。

ま-3
@ma3molcar
ひどいよ!💢💢クラファンしたのに倒産だなんて!😭 お金返して〜💸 ͗ ͗

露天風呂作るっていうからクラファンして、なかなか露天風呂出来なく、仕方ないから露天なしで、泊まり行こうとしたら…

今日弁護士さんから電話きた…もうお金は戻って、こない。
2026/04/03 12:02
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自己破産までもが作為によるものだとは言わないが、結果としてクラファン達成から2年経過しても露天風呂が完成していない以上、支援金が目的外の運転資金に流用されていたのは明らかであり、花千郷に弁解の余地はないだろう。

僕は花千郷の名前も、クラウドファンディングの存在も知らなかったのだが、その後フォロワーさんより、「旅行新聞」の記事を引用する形で、この「花千郷」は区分ホテルであるとの情報提供をいただき、一連の騒動を知ることになった。

区分ホテルの破綻と聞き、早速登記簿を取得してみると、確かに事務所などの業務用スペースとホテル部分を分けた区分の登記になっているのだが、ホテル部分である家屋番号「鬼怒川温泉滝482番6の3」の建物は、客室ごとの区分にはなっておらず、ホテル全体が合計115名の権利者によって共有されている現状が確認できた。新潟県湯沢町で、今なお数百人の共有状態のまま廃墟化して放置されている「エクストラクラブ岩原」と同じ状況である。

毎回同じパターンで呆れるしかない。クラファンのトラブルは現代的な話だが、ホテルの運営会社が破綻し、建物の共有者が放置されるケースは、これまでもう何度も繰り返されてきた典型的な区分ホテル・リゾートクラブの破綻劇だ。花千郷の建物登記では、今も建物の名称が「ホテルニュー光水閣」となっているが、このホテルニュー光水閣の時代に、500口に分けて販売された共有持分が、その後経営陣が変わったのちもそのまま引き継がれていたものだ。

経営破綻した区分ホテル「ものぐさの宿花千郷」

経営破綻した区分ホテル「ものぐさの宿花千郷」

ホテルの入口に貼られた告示書。

ホテルの入口に貼られた告示書。

「花千郷」の建物登記の一部。建物の名称は、旧名である「ホテルニュー光水閣」のままになっている。

「花千郷」の建物登記の一部。建物の名称は、旧名である「ホテルニュー光水閣」のままになっている。

「光水閣」の歴史は古く、そのルーツは戦前にまで遡る。1936年(あるいは1940年)、現在の花千郷の場所で開業した光水閣旅館は、当初は20室程度の木造の温泉旅館だったが、1960年に鉄筋コンクリート造りのホテルとしてリニューアルを果たし、運営会社も「株式会社光水閣ホテル」として新たに発足した。

今でこそ旧光水閣周辺は、鬼怒川温泉の中心地からはやや外れた立地になってしまっているが、移転前の旧鬼怒川温泉駅は、光水閣のすぐ北にあるくろがね橋を渡った鬼怒川の対岸に位置していた。当時は光水閣周辺が温泉街の中心であり、鬼怒川を代表する温泉旅館が川の両岸に軒を連ねていた。

1966年頃の「光水閣ホテル」時代の広告。(『栃木年鑑』より)

1966年頃の「光水閣ホテル」時代の広告。(『栃木年鑑』より)

そして1989年、バブル景気の真っ只中、長年鬼怒川温泉に数多ある温泉ホテルとして地道に運営を続けてきた光水閣に大きな転機が訪れる。東京・日本橋浜町に本社を構え、当時首都圏で盛んに建売住宅やマンション分譲を手掛けていた不動産会社「オクト株式会社」が光水閣ホテルを買収し、同ホテルはオクトグループの傘下に入ることになった。

買収の経緯について詳しい記録は残っていないが、新駅周辺に近代的な大型ホテルが立ち並んでいく状況の中、街はずれとなってしまった1960年築の古い旧光水閣ホテルは次第に立ち行かなくなり、ホテルの建て替えのためにオクトグループに命運を託すことになったと推察できる。

旧光水閣ホテルを買収したオクトの手によって、同ホテルは地上12階建ての「ホテルニュー光水閣」として生まれ変わり、新たな船出となったわけだが、この時にオクトが採った手法が、単なるホテルのリニューアルではなく、「オーナー制度」と称した、1口1027万円、総販売数500口にも及ぶ区分所有権の共有持分の販売であった。

共有持分と言っても会員制リゾートクラブではなく、あくまでホテルはホテルとして一般客向けに開放し、そのホテルの収益を共有持分者に分配するという触れ込みの投資商品である。資産運用と同時に、ホテルの共有オーナーは優待価格でオクトグループの施設を利用できるということで「エンターテイメント型資産計画」なる、実に虫のいいキャッチコピーが打たれている。

「不動産活用の総合商社」を名乗るオクトの広告。(『NEW WAVE』第3号1989より)

「不動産活用の総合商社」を名乗るオクトの広告。(『NEW WAVE』第3号1989より)

「リゾートホテル共有持分権分譲方式」として販売された「ホテルニュー光水閣」の広告。(『月刊Decide』1989年5月号より)

「リゾートホテル共有持分権分譲方式」として販売された「ホテルニュー光水閣」の広告。(『月刊Decide』1989年5月号より)

ところが、ホテルニュー光水閣の開業からわずか4年後の1993年12月10日、オクトは941億円にのぼる巨額の負債を抱えて東京地裁より破産宣告を受け経営破綻してしまう。破綻前の1990年にオクトの代表である大川正守氏は脱税で逮捕され執行猶予判決を受けており、ただでさえ信頼を失っていた中で、バブル崩壊により急激に業績が悪化し、瞬く間に経営が立ち行かなくなったものだった。

親会社の経営状況が急激に悪化する中で、ホテルニュー光水閣は、オクト破産前の1993年6月時点で別法人化しており、破産による直接的な巻き添えは免れ、以降も営業は継続することになった。当初オクトが「元本保証」として謳っていた、分譲5年後以降の買取り制度は当然なくなったとしても、その後のホテルニュー光水閣の経営状況や、数百人に及ぶ法人・個人オーナーへの分配状況などを伝える記録はない。

オクトの倒産を伝える新聞記事。(1993年12月11日付読売新聞)

オクトの倒産を伝える新聞記事。(1993年12月11日付読売新聞)

ただ、2026年4月時点で順位番号819にまで及ぶ膨大な登記簿では、光水閣の関連会社と思われる法人が根気よく持分を買い戻そうとしていた痕跡を見ることができる。これは花千郷がホテル名を変更して経営を引き継いだ2009年以降も同様で、2026年4月3日の時点で共有者の数は115名(法人含む)にまでまとめられている。それでも115名である。そしてこの115名という数字には、相続未登記の陰に隠れる法定相続人の数は含まれていない。

花千郷の代表が語るところによれば、2009年にそれまでの経営者が、売上の低迷が続いていたホテルニュー光水閣の経営を放棄したため、経営を引き継ぐことになったのだという。今回問題となったクラウドファンディングもそうだが、花千郷はSNS発信も比較的活発で、プロモーションとして有名インフルエンサーを起用したりと、それなりに経営改善のために様々な施策に挑んでいたという印象がある。

花千郷のX公式アカウント。クラファンの宣伝のために人気YouTuberを起用している。

花千郷のX公式アカウント。クラファンの宣伝のために人気YouTuberを起用している。

結末だけ見れば、まるで詐欺のような話にも思えてしまう今回の破綻劇だが、そもそも権利が乱脈化した区分ホテルの運営にそれほどのビジネスチャンスがあるようにも思えない。クラファン支援金の流用については非難を免れることはできないにせよ、スタート時は確固たる志を持って鬼怒川の観光業に取り組んでいたのだと信じたい。

しかし区分ホテル、共有持分型ホテルの致命的な欠点は、いかに運営会社が真摯に取り組もうとも、ひとたび破綻してしまえば、ホテル運営のイロハも知らない数十名、数百名の素人で共有しているというだけの区分建物が取り残されるということである。今回の花千郷も、今まさにその状況にある。

花千郷の建物を所有する115名の共有者(その中には花千郷の関連会社も含まれているが)は、(実際の契約の有無は別として)形の上ではあくまで花千郷と賃貸契約を締結している「債権者」であって、破産したからと言って、花千郷の破産管財人の独断でホテルの土地建物を売却し、弁済に充てることはできない。この破滅的なまでに倒錯した権利関係が足枷となって、今なお全国各地で区分ホテルや共有持分型リゾートクラブが、行き場もないまま日に日に朽ち果て続けているのである。

ただ、経営破綻した区分ホテルや共有持分型ホテルのすべてが、その後再興することなく廃墟化しているわけではない。のちに新たな経営者が現れ、現在も運営を継続しているホテルはいくつもある。本来であれば花千郷も、そんなホテルのひとつのはずだった。

今後の命運を分ける要因はただ一つ、この旧ホテルニュー光水閣=花千郷ホテルの複雑な権利関係を克服してでも、この土地建物で宿泊業を行う経営上のメリットがあるか否かという、あまりにも当たり前すぎる一点に尽きる。2025年の鬼怒川・川治温泉の宿泊者数は前年より10万人増加し、6年ぶりに120万人に到達したそうだが、鬼怒川温泉の宿泊業の現状を考えれば、まったく予断を許さない状況である。

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