別荘地管理費をめぐる紛糾

各地で頻発する別荘地管理費をめぐる紛糾の解説です
吉川祐介 2026.05.29
誰でも

僕が常日頃コンテンツで扱う「別荘地」は、名目は別荘地であっても、実態は原野なんだか山林なんだか判別のつかないものばかりだが、一般的に「別荘地」として聞いて多くの方が思い浮かべるのは、固有の別荘地名を掲げ、管理会社が存在し、場合によっては入り口に守衛室やゲートも存在し、維持された環境で運営されている光景であろう。

こうした管理別荘地は民間企業が管理業務を行っているため、土地所有者は、利用の有無にかかわらず所有しているだけで一定額の管理費の支払い義務がある。管理費の額や、その管理のサービス内容は別荘地によって様々だが、多くの場合、建物所有者だけでなく更地の所有者にも管理費が発生している。

管理別荘地であれ、または荒廃した放棄別荘地であれ、いずれも分譲から半世紀ほど経過しているので、近年では当初の購入者からの相続が進んでいる。しかし、別荘地を相続した方が、今頃になってその別荘地に新築を建築するケースは皆無に近い。

そもそも建物がなかったから、多くの土地所有者は自分の別荘地に足を運ぶ機会もなく、相続人にとってはその土地に何の思い入れもないどころか、そもそも相続するまで一度も足を運んだこともない人も珍しくない。別荘地は傾斜地が多いため、今となっては高額の建築費用を要したり、法令が改正されてそもそも建物の建築が認められなくなっていたりすることもある。

分譲から半世紀が経過した栃木県那須町の管理別荘地。斜面の区画の更地は大半が長年利用されることもなく放置されているが、管理費の納入義務は続いている。

分譲から半世紀が経過した栃木県那須町の管理別荘地。斜面の区画の更地は大半が長年利用されることもなく放置されているが、管理費の納入義務は続いている。

定住していない所有者の自主管理で、別荘地内の私道の整備などを行うのは困難であり、また人目がない別荘地は防犯上のリスクも格段に高まる。だから建物を所有し、実際に別荘として使用している所有者であれば、管理会社や管理費が不要だと考えている人はあまりいないはずだ。

一方で、相続で更地を取得した所有者にしてみれば、使う気もなく、売るに売れない別荘地の土地について、年間数万円とはいえ毎年管理費が発生するのは負担でしかない。建物がない以上、別荘管理業務の恩恵を受けられる機会がほとんどないためだ。

しかしこの管理費や、その管理費の請求の根拠となる管理契約について、多くの管理会社は所有者側からの申告により契約解除を認めていない。管理会社によっては、管理契約の解除は出来ないこと、またその契約は、所有者が死亡した場合は相続人に継承されることを管理規約に明記しているところもある。

別荘管理大手のエンゼルフォレストリゾートの別荘管理規約。管理契約の解除ができない旨が明記されている。

別荘管理大手のエンゼルフォレストリゾートの別荘管理規約。管理契約の解除ができない旨が明記されている。

その理由として、所有者側からの一方的な契約解除を認めてしまうと、契約解除が続発し、納入者との不公平が生じ、さらには管理会社の運営が立ち行かなくなってしまう可能性があるため、とされてきた。ところが困ったことに、ではすべての別荘地において、管理業務に見合った適正かつ公平な管理費が設定されているかというと、実態はまったくそんなことはないどころか、執拗に管理費を請求するばかりで、管理らしい管理をほとんど行っていないような会社もある。

別荘管理の仕事は、確かにそのコストを明示するのが難しい業種ではある。別荘管理の有無で最も大切なのは、その別荘地に管理者が常駐しているかどうかという点であって、このメリットは単純に金額換算できるものではない。

それ以外の日常の管理業務となると、主に別荘地内の道路の清掃や草刈り、ゴミ処理などの雑用ということになるが、通常こうした業務は管理人、あるいは管理会社の従業員の日常業務の範疇として行われるもので、つまりはその人件費が経費となる。

その人件費の支出が妥当なものであるかどうかを、別荘地の所有者側が監視・指摘できるような仕組みがほとんど作られていないために、管理費の妥当性を巡って紛糾が続いているのである。消費者センターのような仲裁を行う監視機関もないので、しばしばその紛糾は法廷の場に持ち込まれる。

ところがこうした管理会社と所有者の間で争われる民事裁判は、一部の例外を除き、所有者側が勝訴した例はほとんどない。裁判所としては、別荘地における管理契約は所有者側の都合による解除を認めない、という方針に固まりつつある。おそらく裁判所は、別荘地の管理契約を、一般の自治会や町内会と同等のものとみなしているか、先にも述べたように、所有者側の解除を認めてしまうと、他の別荘地利用者との不平等が生じ、別荘地全体の管理に悪影響を及ぼすと考えているようである。

別荘地の管理事務所(和歌山県白浜町・バラード白浜別荘地)

別荘地の管理事務所(和歌山県白浜町・バラード白浜別荘地)

バラード白浜の管理規約。こうした管理規約は別荘地ごとの独断で定められるばかりで、統一した指針がない。

バラード白浜の管理規約。こうした管理規約は別荘地ごとの独断で定められるばかりで、統一した指針がない。

管理契約の解除が認められないだけでなく、そもそも管理契約を結んでいない土地所有者に対しても、管理会社による請求が認められた判例がある。2025年6月30日に最高裁判決が確定した、栃木県那須塩原市上横林の「塩原リゾートタウンパルコ」の管理費を巡る裁判では、元々現在の管理会社と契約を結んでいない相続人が、管理費を支払っていないのに管理業務によってもたらされるさまざまな利益にただ乗りしているとして、管理会社側から「不当利得返還請求訴訟」として告訴されていた。この裁判についても最高裁は管理会社側の主張を認め、相続人に対して不当利得分として19万5660円の支払いを命じている。

最高裁判決を報じる新聞報道を目にし、当時僕は東京地裁に出向いて裁判記録に一通り目を通したのだが、それを読むと、管理会社と、生前の前所有者の間には、裁判前から様々な確執があった模様が確認できた。この「塩原リゾートタウンパルコ」は、もともとは三共開発株式会社という当時のデベロッパーが分譲し、前所有者はその三共開発から購入して所有していたのだが、1978年に三共開発が破産した後、数年間は管理会社もなく放置されていたらしい。

その後、三共開発の元社員が設立した別の管理会社が同別荘地の管理業務に着手し、現在の五大観光株式会社はその社名が変更されて設立されたものである。しかし問題となった土地の前所有者さんははこの後任の管理会社とは管理契約を結ばず、あくまで自分が所有する土地のみの草刈りなどの管理を、独断で地元の土地管理業者である塩那不動産管理株式会社に依頼していた。

塩原リゾートタウンパルコ別荘地。(栃木県那須塩原市)

塩原リゾートタウンパルコ別荘地。(栃木県那須塩原市)

周辺にはいたるところに「パルコ」の看板が立つ。

周辺にはいたるところに「パルコ」の看板が立つ。

これはあくまで裁判の中で被告側が主張していた話だが、ある時期から、依頼を受けて土地の草刈りを行っていた塩那不動産管理の作業員が、管理会社の従業員に車で追いかけられて追い払われたり、立看板を勝手に抜かれて処分されると言った妨害行為が繰り返されるようになり、そのため塩那管理側から管理業務の継続を断られてしまったそうだ。仕方なくその後は草刈りなどの管理を行うこともなく放置していたところに、今回の不当利得返還請求訴訟となったようである。

だがこの妨害行為については、被告側の主張以外に証拠となるものがなく、そもそも今回の裁判の争点でもないため、原告側もこれら被告側の主張について特に反論はしていない。原告側はあくまで不当利得返還請求の根拠を説いていただけだった。判決文においても、被告が主張する妨害行為は問題にされていない。

塩原リゾートタウンパルコ。

塩原リゾートタウンパルコ。

被告側が主張していた妨害行為の真偽は不明であるにせよ、現在の塩原リゾートタウンパルコは、別荘地としては管理業務は適切に行われており、放棄分譲地のような荒廃した印象はない。理屈としては、管理費未納者は対価を支払うことなく管理業務の恩恵を受けている、という主張にも一定の理はあるように思えてくる。日々の管理業務によって土地の資産価値を高めている、という理屈である。

だが実際には、今はこのような管理別荘地は、年間の管理費が発生してしまう分、ただの山林や放棄分譲地よりも、ある意味ではよほど手放しにくい「負動産」と化している現実がある。これは管理費があるリゾートマンションでも同様の現象が起きているが、ただでさえ低いリゾート物件の需要が、管理費の存在によっていっそう押し下げられてしまっているのが実情である。

栃木県那須町・那須バケイションランドの物件広告。れっきとした管理別荘地だが、市場価格は崩壊している。

栃木県那須町・那須バケイションランドの物件広告。れっきとした管理別荘地だが、市場価格は崩壊している。

別荘地における未利用区画の圧倒的な供給過多が続く中、管理の有無によって資産性が左右されることなどない。いかにその別荘地が適切に管理されていようとも、所有するだけで明確なコストを要する代物である以上、未利用区画など0円で手放せられれば御の字のレベルなのだ。

塩原パルコの最高裁判決を受けて、いくつかの別荘地では、その判決を根拠に、未納管理費の徴収に動き出しているという情報を耳にしている。またその話とは別に、従前の管理費からの大幅値上げを通告される別荘地所有者の話も聞こえ始めている。

山梨県のある別荘地では、管理会社が変わった途端、管理費が2倍に値上げされ、とてもそんな土地を所有していられないと、所有者の方が管理会社に土地の買取りを希望したところ、逆に引き取り料金として250万円を請求された事例があった。こんなことが続けば、管理別荘地の物件価格や流動性はますます呈していくのは明白であろう。最高裁判決の判例を盾に、高額の引き取り料目当てに管理業務へ参入する不届き者も現れるかもしれない。

近年では、価格のつかない負動産については、売れるどころか、手放すために所有者側が一定の金銭的負担を要する事例が多い。リゾート物件に関しては、数年分の管理費や手数料を徴収して、元の所有者から有償で負動産を引き取る「有償引取業者」も多数登場している。

この手の業者の中には、数年分の土地管理費用という名目で高額の引き取り料を徴収しておきながら、いざ引き取ったら、管理費どころか不動産取得税すら払わず、そのまま法人ごと休眠状態にして放置する会社も存在する。あまり管理費の請求を強めて所有者に圧力を掛けても、結局は不良業者の暗躍を招くだけで、長い目で見ればこれは所有者だけでなく、管理会社にとってもマイナスな現象のはずなのだ。

紀州鉄道クラブ会員への告知。管理費や会費を踏み倒す有償引取業者への注意喚起を行っている。

紀州鉄道クラブ会員への告知。管理費や会費を踏み倒す有償引取業者への注意喚起を行っている。

こうした別荘管理規約の現状を「奴隷制度に等しい」と断じ、紛争の解決に取り組んでいたのが、弁護士の原和良先生だった。原先生は昨年11月、個別の民事訴訟として処理されるばかりだったこの管理費問題を、ひとつの社会問題として提起し広く世論に訴えていくことを目的に、有識者やメディア関係者、紛争当事者である別荘地所有者の方々に広く呼び掛け「分譲地管理費を考える全国交流会」を発足させた。僕も昨年はこの別荘管理費に絡む取材が多かったので、当初からこの会合にも参加し、取材や配信を通じてこの問題について発信していく予定だった。

だが当ニュースレターでは既報の通り、原先生は昨年11月末に病に倒れて搬送され、一度は回復の兆しが見えたのだが、その後再び病状が悪化し、今年の1月に帰らぬ人になってしまった。「分譲地管理費を考える全国交流会」の会場としても使われ、管理費裁判を主導していた東京・大塚のパートナーズ法律事務所は、原先生が代表弁護士を務めていた事務所であり、一時は会の存続も危ぶまれる状況であったが、幸い、同法律事務所の存続も決まり、主を失ったとは言え交流会の定期開催も続いている。

そんな折、最近になって、長野県下伊那郡阿智村浪合にある「あららぎ高原別荘地」で土地建物を所有する所有者さんから一通の相談のメールが届いた。あららぎ高原別荘地はこれまで、阿智村でゴルフ場を運営する管理会社「株式会社あららぎ」が別荘地の管理業務を行ってきたが、2025年1月、突如別荘所有者の元に、あららぎが管理業務から撤退し、新しい管理会社として「治部坂企画株式会社」が管理業務を行う旨の通知書が送付されてきたという。

ところがこの管理会社の変更に伴い、新しい管理会社である治部坂企画が提示した管理費は、3通りあるプランのうち、最も安いプランであっても、あららぎ時代の管理費のおよそ2~3倍にも及ぶ金額であった。

管理会社の変更についても事前に十分な告知が行われていたとは言いがたく、人によっては、変更の前日になって通知書を受け取った別荘所有者もいた。それで管理費が急に倍以上の額に跳ね上がるということで、別荘所有者の間に大きな動揺と反発を招く結果となった。別荘地の管理会社の変更は近年少なくないが、これはその中でも最悪レベルの初動と言っていいずさんな交代劇であろう。

あららぎ高原別荘地。(長野県阿智村)

あららぎ高原別荘地。(長野県阿智村)

別荘地の管理費はあくまで所有者一人一人との個別の契約で、所有している土地の広さによって変わったりもするので、別荘所有者の全員が同額を支払っているわけではないが、ある土地建物所有者のあららぎ時代の管理費は、年間62524円であった。これは、全国的に見れば安めの別荘管理費であると思うが、長野県においては標準的な金額である。それには長野県特有の別荘地の事情がある。

全国的な別荘地開発ブームが沸き起こった1960年代~70年代の日本は、戦災からの復興を果たした高度成長期の時代である。だが、県域の大部分を山間地が占める長野県の、それも特に小規模な町村レベルの自治体においては、このころすでに深刻な人口流出と過疎に見舞われていた。林業や農業など第一次産業に頼る長野県内の小規模町村は、大都市圏からの遠さや交通事情の悪さから満足な企業誘致もかなわず、高度成長の恩恵が行き届いていなかったのだ。

そこで当時の長野県企業局が主導して行ったのが、国や県、市町村が所有する公有地や、地元財産区の所有する山林を別荘地として開発・分譲し、その売り上げを地元のインフラ整備の財源とするという、いわば官製別荘地の販売事業であった。この事業が最初に行われたとされる菅平高原の名称から、当時この事業は「菅平方式」と呼ばれ、リゾート業界においてにわかに注目を集めている。

長野県麻績村と聖高原開発公社による別荘地分譲の広告。公有地のため所有権ではなく地上権を分譲している。(1972年5月24日付読売新聞)。こうした官製別荘地の分譲は1980年代まで続けられた。

長野県麻績村と聖高原開発公社による別荘地分譲の広告。公有地のため所有権ではなく地上権を分譲している。(1972年5月24日付読売新聞)。こうした官製別荘地の分譲は1980年代まで続けられた。

このため長野県は今日でも、市町村が管理業務を担う公営の別荘地が県内のあちこちにある。土地の所有権ではなく地上権や借地権を分譲している自治体もあるが、いずれも管理業務は地元自治体が行っている。今回取材をした阿智村浪合のあららぎ高原別荘地の隣にも、旧浪合村が分譲した公営の別荘地がある。そして往々にしてこの手の官営別荘地は、民間の別荘地と比較して管理費が低廉に抑えられている。

このためあららぎ高原別荘地も、真隣にある旧浪合村営別荘地の管理費と、同等にせざるを得なかったという面があったのだろう。そもそもの話として、現在のあららぎ別荘地は民間資本で運営されている別荘地だが、その運営母体となるゴルフ場と、前管理会社である株式会社あららぎは、本来は旧浪合村と民間企業によって設立された「長野県あらゝぎ高原観光開発株式会社」という第三セクターだった。

その第三セクターが、果たしていつから完全な民間資本に移行したのかについては、なぜかまったく記録がない。阿智村役場に確認しても、村があららぎ別荘地の運営・管理に関与している事実はないという。旧浪合村が阿智村に吸収合併されて消滅する過程で、そのあたりの取り決めもすべて霧散してしまったのかもしれないが、第三セクターの運営とはそんないい加減なものなのだろうか。そういった経緯があるためか、今のあららぎ別荘地は事実上民間の別荘地でありながら、別荘地内の道路は旧浪合村名義の村道であり、別荘の水道施設がある筆や水源地も、同じく旧浪合村の名義である。

第三セクターとして発足したはずが、いつの間にか完全民間資本運営となっていたが、道路と水源用地は今も旧浪合村の名義となっている。

第三セクターとして発足したはずが、いつの間にか完全民間資本運営となっていたが、道路と水源用地は今も旧浪合村の名義となっている。

あららぎ高原別荘地の水道施設。土地は旧浪合村名義だが、水道施設の所有権や管理権限は曖昧なまま今に至っている。

あららぎ高原別荘地の水道施設。土地は旧浪合村名義だが、水道施設の所有権や管理権限は曖昧なまま今に至っている。

開発からおよそ半世紀、浪合村が合併により消滅しても、株式会社あららぎによる別荘管理は続けられてきた。管理人は何回か交代しているが、今、あららぎ別荘地に土地建物を所有している利用者の方が記憶しているのは、元浪合村職員で、村内の自宅から通いで別荘管理を行っていた夫婦である。旦那さんが毎日、別荘地内と水道施設を見回り、冬の除雪作業に備えて路肩の清掃を続けていたそうだ。

先にも述べたが、別荘管理で重要なのは、別荘地内、あるいは管理事務所に管理者が常駐しているということである。別に管理人が四六時中休まず何か作業をしたり、常に何かしら別荘地内の設備の補修工事を行うことが求められているわけではない。そこに管理者がいる、という事実こそが、防犯面で最も大切な要素になる。

今は少ないと思うが、かつて別荘地やリゾートマンション、企業の保養所の管理人という仕事には、住み込みで常駐して従事する就業形態があった。1972年2月、当時の河合楽器の保養所が逃亡中の連合赤軍メンバーに押し入られて、留守番中の奥様が人質に取られた「あさま山荘事件」が発生しているが、この事件に巻き込まれた夫妻も住み込みの管理人であった。

元浪合村職員の管理人夫妻は、住み込みではなかったが、日中は必ず別荘地内に常駐していた。ところがその後、管理人が交代すると、当初は前任者と同様に管理業務を行っていた新管理人だったが、次第に管理業務に手抜きが見られるようになっていったという。いつの間にか管理人の独断で「休業日」が決められ、それが最終的には週休3日ほどにも及び、別荘地内の道路や設備は目に見えて荒れ始めていったそうだ。

株式会社あららぎが管理業務からの撤退を表明し、治部坂企画へ管理事業を売却したのはそんな時期であった。2025年2月1日、治部坂企画は管理業務引継ぎにあたって「別荘地内の主な課題」と題した文書を発行し、以下の6点について改善を進めると表明した。その6点とは、

①水道設備の老朽化

②構内道路の課題

③街灯

④消火器

⑤廃棄物課題

⑥デジタル化推進

である。そしてその管理契約のプランを「プレミア」「シグネチャー」「プレステージ」の3段階に分類し、管理費の額に応じたサービス展開を行うと発表した。併せて、管理会社変更に伴い、「あららぎ高原別荘地」の名称も「治部坂Retreat ”中馬”」に変更された。

管理会社の変更に伴い、新管理会社である治部坂企画が各所有者に通達した「別荘地内の主な課題」。

管理会社の変更に伴い、新管理会社である治部坂企画が各所有者に通達した「別荘地内の主な課題」。

これら管理会社や管理費の変更について、事前の協議や連絡が十分に行われていないと考えた別荘所有者から異論の声が上がったが、定住者が少ないあららぎ別荘地は、別荘所有者同士の交流が乏しく、当初は数名の反対者が治部坂企画と協議を行っていただけだった。

治部坂企画側が管理費の徴収状況や収支を公開しないので、具体的にどれだけの土地・建物所有者が、治部坂企画の提示した管理費の支払いに応じたかは不明だが、何人かの所有者は、すでに新しい管理契約を締結し、治部坂企画が呈示した管理費を支払ったようである。

のちに管理契約の解除に係る規約の一部が改正されたが、当初治部坂企画が作成した新しい管理規約にも、別荘地所有者側からの契約解除はできない、契約者本人が死亡した場合は相続人が契約を継承する、と明記されていた。この管理契約は、おそらく別荘管理業の大手であるエンゼルフォレストリゾートの管理契約を参照して作成されたと思われるが、あららぎ高原別荘地時代にはなかった規約なので、これも別荘所有者からの強い反発を招く一因となった。

治部坂企画と別荘所有者の協議の場は何度か設けられたが、両者の交渉は決裂し、現在まですでに数か月以上にわたって、治部坂企画は反対者との協議に応じる姿勢は見せていない。一方で、治部坂企画が管理業務を引き継いだのちは、管理人の公式Instagramでは、道に散乱した倒木の片付けや除雪の模様の動画が紹介されてはいるのだが、当初治部坂企画が「別荘地内の主な課題」として掲げていたはずの、道路や消火栓の設備の補修などは一切行われていない。

管理会社が改善を進めていくと明言した別荘地内の消火器類。すでに1年以上の月日が経過した今も一切更新されていない。

管理会社が改善を進めていくと明言した別荘地内の消火器類。すでに1年以上の月日が経過した今も一切更新されていない。

一番の問題は水である。あららぎ高原別荘地の私設水道は、別荘地の最上部にある沢水を取水してろ過したうえで排水されているのだが、取水口に落ち葉などが詰まりやすいため、旧管理会社の頃は毎日管理人が点検に回っていた。この点検業務も今は行われていないが、配水施設のドアの鍵は今も治部坂企画が保有している。

この配水施設、先にも書いた通り土地は旧浪合村の所有なのだが、阿智村役場浪合振興室に確認したところ、この土地については、前管理会社のあららぎとも、また現在の治部坂企画とも、土地の賃貸借契約のようなものは結んでおらず、いわば暗黙の了解の状態で貸している、とのことだった。定期点検が行われなくなったため、一時期別荘地内の水道は、泥水のような濁った水が配水されることもあったという。

水源地の取水口。まったく管理されている気配がない。

水源地の取水口。まったく管理されている気配がない。

第三セクターが事実上消滅した経緯は不問にするとしても、別荘地内の村道の管理にせよ、この水道施設にせよ、今なおあくまで村有地である以上、正直言って阿智村の対応はルーズな印象を受ける。ただこれも、これまではそれで何も問題が起きていなかったので、長年の慣習として続けられてきたのだろう。今頃になってこんな問題が沸き上がり、別荘所有者側からの対応を求められ、村役場側も困惑しているかもしれない。

治部坂企画は、別荘地入口にあるレストランやホテルの運営を手掛けており、こちらは公式サイトやInstagramなどでも熱心に宣伝を行っている。一方で別荘地の管理業務は、肝心の管理事務所を、それまで別荘地の入口にあったものを、その運営しているホテルの中に移してしまい、管理事務所は無人になってしまった。

事務機能がホテルの中に移転し、無人となった管理事務所。

事務機能がホテルの中に移転し、無人となった管理事務所。

Instagramでもその模様を公開している除雪作業は、阿智村から無償で貸与された除雪車によるものである。ところが治部坂企画は、村から無償で貸与された除雪車で村道、つまり公道の除雪を行っているにもかかわらず、除雪を行うのはあくまで管理費を支払っている住宅の前だけで、反対派の所有者の別荘地付近は、村道でありながら除雪ルートに含めていない。公有財産を無償で借り受けて行う公道上の除雪作業に、自社の利益に応じて優先順位を付ける運用は、はたして適切なものといえるだろうか。そのような恣意的な運用を行うのであれば、せめて除雪車は有償での貸与とすべきであろう。

公道や公有地の管理について株式会社あららぎが、村当局から暗黙の了解で管理業務を一任されていたのは、そもそも出自が第三セクターだったからである。その暗黙の了解で成り立っていた管理業務を、何の審査もないまま素性の知れない第三者に譲り渡して、インフラである公道や水道の管理もすべて一任できてしまう仕組みにも問題があるといえる。

治部坂企画が公開した除雪ルート。すべて村道でありながら、反対派の利用者の建物付近はルートから省かれている。

治部坂企画が公開した除雪ルート。すべて村道でありながら、反対派の利用者の建物付近はルートから省かれている。

2026年に入ると、昨年は治部坂企画の請求通りに管理費を支払った所有者の中にも、前管理会社と比較して目に見えて劣化した管理状況に不満を覚える人が増えてきた。当初、別荘地の管理費の値上げに反対した所有者の呼びかけで、別荘地の自主管理を掲げ、村道や水道施設の管理の主体を、治部坂企画から移管させるための村への働きかけを行うための「あららぎ別荘会準備会」が設立された。現在の会員は30名ほどであり、別荘地内にある企業の保養所も参加している。

今回、僕に取材依頼をしてきた別荘所有者の方は、もともと前管理会社の時代から劣化を始めていた管理状況に不満を抱えながらの、今回の治部坂企画の出現だったため、当初は管理契約の締結の要請にも応じず静観するつもりだった。ところが、前管理会社の最後の管理人であり、のちに治部坂企画においても一時期管理人を務めていた人物から、管理契約はいつ締結するのかと詰問され、電話越しに「あんた、契約しなかったらひどい目に合うよ」などと言われたのをきっかけに、これはいけないと考え、別荘会準備会の発足に関わり始めたという。

別荘会の目標としては、自主管理によって、年間管理費を旧あららぎ高原別荘地時代と同水準に抑えることとしている。しかし、これはあくまで僕個人の意見であるが、先にも話したように、元々長野県の別荘地、特に官営別荘地の多くは、管理費の水準が他県と比べて安めな傾向がある。立地の問題もあるので、一概に伊豆や箱根などの別荘地と同一視はできないが、これだけ各種の物価や人件費が上昇している昨今、多少の値上げはやむを得ない面もあるとは考えている。

だが、問題の本質はそこにあるのではない。現在、管理費を巡って管理会社と所有者の間で紛糾が起きている各地の別荘地において、そもそもこういった所有者側の対抗組織が形成されること自体、まだまれなケースである。別荘地はどうしても所有者同士の交流が乏しい面があるので、不適切な管理業務が横行しても、相談相手もなく、なかなか声を上げられない状況が続いてきた。

管理会社も、所有者側からの契約解除を認めない、契約は相続人にも継承されるなど、そんな強力な管理契約が認められるのであれば、当然、その管理費の収支状況にも透明性が求められるはずなのだが、現状はそれらを一切非公開にしても何の咎めもなく、ただ言い値での管理費請求が通ってしまっている状況である。これでトラブルが起きないはずがないのだ。

「分譲地管理費を考える全国交流会」を発足させた原和良先生は生前、裁判所が管理会社側に有利な判決を出す理由について、裁判所はそもそも「別荘地」を、単なる贅沢品として見做しており、年間数万円の支出について真剣に考えていないのではないか、とお話しされていた。

しかし今日の別荘地は世代交代も進み、相続人のすべてが富裕層というわけではない。別荘地の定住者も一定数いる。原先生が、交流会の名称について「別荘地」の文言を使わず、あえて「分譲地」の呼称を採用したのは、別荘地から連想される裕福なイメージから発生する予断を排除する目的があった(原先生の意見に異を唱えるわけではないが、僕自身はコンテンツの性質上、わかりやすさを重視して今も別荘地の呼称を用いている)。いずれにせよ呼称は何であれ、別荘管理費について一定のガイドラインや監視機関などが設置されない限り、おそらくこの管理費を巡る問題は今後も限りなく発生するであろう。

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