空き家再生協会

僕も理事として参加している「空き家再生協会」と空き家活用にまつわるあれこれについて
吉川祐介 2026.06.09
誰でも

4月21日、八街市役所において、八街市と一般社団法人「空き家再生協会」および地元不動産業者「オハナホーム株式会社」との間で「空き家対策の啓発・予防に関する協定」「空き家対策の実務推進に関する協定」が締結され、その調印式が行われた。調印式の模様は5月27日付の千葉日報で報じられたが、この日は僕も調印式に理事の一人として出席している。

これまで正式に告知する機会がなかったが、僕は昨年の10月から、この「空き家再生協会」という団体の理事に就任している。理事と言っても、僕は不動産売買の実務経験はもちろん、ビジネスの経験そのものに乏しいので、今に至るまでこれと言って貢献できていることもないのだが、理事長である菊池聖雄さんにお誘いいただいて、現在も時折会合に参加している。

菊池さんは今回の協定式のもう一つの当事者であるオハナホームの代表で、僕は数年前からお付き合いがある。僕が元々八街で今の発信活動を開始しており、八街に関する発言が多い縁で知り合ったものだった。たまにお会いすれば、話題はもちろん不動産や空き家、空き地に絡むローカルな話になるが、特に会社の営業や宣伝などをお手伝いしていたわけでもなく、あくまで個人的なお付き合いに過ぎなかった。

総武本線八街駅。

総武本線八街駅。

僕が菊池さんと知り合った頃からすでに「空き家再生協会」は発足していた。しかし、オハナホームはれっきとした営利事業だが、「空き家再生協会」は、もともと営利のみを目的に運営されているわけではないので単体で収益を上げられる状況になく、菊池さん側からの持ち出しで運営されている状況だった。

「空き家再生士」という民間資格の認定試験を開催しているが、これもサイトの運営費だけで足が出る状態で、菊池さんはよく「資格ビジネスにすらなっていないんです」と自嘲気味に笑って話していた。

菊池さんは実業家である反面、理想家な面もあり、だからこそ僕もお付き合いしているのだが、現実問題として多額の金銭が動く不動産業界において、理念や理想をそのままマネタイズするのは難しい。しかしいくら営利を主目的にしていないと言っても、別に菊池さんも道楽で運営しているわけではないし、ただ無為に出費が続くだけの状態では団体としての持続性に欠けてしまう。

そこで昨年ごろから体制も一新し、さまざまなプロモーションも兼ねて、菊池さんの本業と二人三脚で舵取りを進めていくことになり、その一環で理事へのお誘いや、今回の協定式の実現となったわけである。

普段のラフな印象とは真逆な正装に身を包んだ菊池さんや、ほかの理事の方々と共に八街市役所へ向かうと、2階の奥にある会議室のような広い部屋に通された。記者会見でよく見る市松模様のパネルが既に設置され、壁には歴代の八街市長や、合併前の旧町村長の顔写真が掲げられている。

八街市役所に設けられた協定式の会場。

八街市役所に設けられた協定式の会場。

こうした企業と自治体の協定式に関する報道はよく目にするものの、率直に言ってこれまではあまり関心を払うこともなかったが、いざ当事者となるとやはりそれなりに緊張するものである。ましてや菊池さんにしてみれば、数年来の運営の節目ともなる日であり、実際に事業所を置く自治体との協定ともあって、いつにも見ない高揚ぶりだった。

協定式の開催にあたって数名の市職員の方が準備をしてくれていたが、北村市長が入室すると、そんな市職員の間にも若干の緊張が走ったようだった。八街市はさして人口規模も大きくない町ではあるが、それでも一自治体の首長ともなればさすがに威厳がある。むしろ小さな町だからこそ首長の存在感は強いかもしれない。

聞けば今回の協定に関して北村市長は、そうか、じゃあやろうという感じでほぼ即断に近い快諾だったようである。別に威張り散らしているわけではないが堂々としていて、優柔不断そうな印象はまったくなかった。僕は自治体職員の経験はないが、田舎町での生活が長いので、こういう小さな自治体の首長気質というのは何となくわからなくもない。

北村新司八街市長と「空き家再生協会」理事長の菊池聖雄氏

北村新司八街市長と「空き家再生協会」理事長の菊池聖雄氏

そんなわけで菊池さんの悲願であった八街市との協定も実現し、協定だけで終わらせるわけにもいかないので、協会としては今後の展開も模索していかなくてはならない。僕と言えば、相変わらず実務に関することはお任せ状態で、ほとんどお役に立てている実感もないのだが、催し物の企画なども進んでいるので、それに関しては僕でも果たせる役割もあると思う。

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さて相変わらず全国津々浦々、十把一絡げに語られがちな「空き家問題」であるが、状況は流動的で、僕みたいに業界の外側から観察しているに過ぎない人間にはその傾向を追いかけるだけで精一杯なところがある。八街のように都心から遠く、かつての地価高騰期に無理に開発されたような住宅地が広がるエリアでは、一見すると「空き家問題」とやらが深刻に見えてしまうが、実際には菊池さんの会社のような買取り・再販事業は盛んで、リフォーム済みの物件も恒常的に供給され、買い手もついている。

ところがここ最近は、特に楽待や健美家のような投資物件サイトにおいてその傾向が顕著だが、八街よりもずっと首都圏から遠い地方都市部において、10万円にも満たない価格の「売家」が多数販売されている。中には「登記費用売主負担、売買支援金10万円支給」などと明記しているものもある。

10万円の「売買支援金」支給が明示された売家の広告。

10万円の「売買支援金」支給が明示された売家の広告。

少し前までは、空き家を0円で取得して活用!みたいな話がテレビ番組で報じられることもあり、僕自身の動画を振り返っても、過去に大きく再生されたのは、横芝光町の廃別荘を5000円で買ったという動画(2023年8月公開)だったが、いずれも今となっては何の目新しさもない日常の光景になってしまった。

もちろん1万円で売られる売家には、そうせざるを得ない固有の事情があるのであり、その街の売家のすべてが1万円で売られているわけではなく、それは八街であっても同じだ。それにしても1万円でこれだけの選択肢がある現状を見ると、かつて若き日の僕が、0円の空き家を求めて信州の山奥の村まで漂流し、膨大な残置物と格闘していたあの日々はいったい何だったのだろうと思う。

10万円にも満たない価格で売りに出されている空き家の多くは、元の所有者が処分に困り、有償引取業者が、売主から一定額の「引取費用」を徴収したうえで引き取り、再販しているものである。もちろん価格が価格なのでリフォームなどは一切施されていないし、残置物もそのまま。業者によっては、物件画像がGoogleマップの航空写真やストリートビューのトリミング画像だけ、という広告もあり、おそらく引き取って再販している会社も現地を見ていないのではと思われる物件も多い。

需要が限られている以上、今の時代、所有者側が一定の負担を受忍しなければ手放せない「負動産」があるのはわかる。業者だって免許を取得し、人を雇って引き取る以上、一定の手数料をもらわざるを得ない。しかし、業者や気合の入った不動産投資家でもない限り、いくら1万円であっても、ただでさえ地価の下落が続くエリアにおいて、何から何まで現況渡しの古家を活用できる人は多くない。

「売買支援金10万円支給」などという物件は、つまり業者が有償で引き取った物件を、(差額の利益はあるとはいえ)結局は有償で手放さなければならないということであり、これでは市場が崩壊の一途をたどるばかりだ。

負動産を手放す側は、少しでも安い手数料の会社を求めるであろうし、有償引取業者の中には、REIWAリゾートグループの「ハート相続不動産・処分センター」のように、宅建業の免許もなく有償引取の看板を掲げる会社もある。こんな会社はそもそも引き取った負動産の出口がない=出口を考える必要がないわけだから、これ以上参入業者が増加し、手数料の価格競争という消耗戦に入ってしまったとき、果たして有償引取業界はどうなってしまうのか。ビジネスの構造上、引き取った負動産の管理責任を放棄すればするほど収益性が高まり、つまり価格競争において持久力が強まるという構造的な矛盾があるのだ。

空き家のすべてが再生・活用可能だとは僕も思わないが、活用するわけでもなければ解体するわけでもなく、ただゴールポストを動かしているだけでは、活用のノウハウも蓄積されない。固定資産税の負担の問題などもあるので、有償引取業者に早急な解決を委ねてしまう所有者さんを責めるつもりはないが、元の所有者が一定費用を負担して処分する仕組みも含め、もう少し物件に応じた緻密な対応がされないと、結局は地域に取り返しのつかない禍根が残る結果になってしまうのではないかと思うのだ。

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