ニセコのリゾート開発を巡る思惑

ニセコにおける外国人富裕層向けのリゾート開発事情の一側面についてまとめました
吉川祐介 2026.01.31
誰でも

2026年1月28日、ニュースサイト「47NEWS」において、共同通信社名義で倶知安町のホテルを巡る驚くべきニュースが報じられた。カンボジアの元首相であり、現在も同国で隠然たる影響力を持つと言われるフン・セン氏の次女、フン・マリー氏の別荘が倶知安町に存在するという報せである 。

周知の通り、現在のカンボジアでは特殊詐欺に関わる犯罪組織の活動が横行している 。それはもはや「横行」というレベルを超え、同国の一大産業と化しており、1月6日には巨大詐欺組織「プリンス・ホールディング・グループ」の会長が拘束され、中国政府に引き渡されたばかりだ 。共同通信は、このプリンスグループの動向を追跡する過程で、フン・マリー氏の別荘の所在を突き止めたようである 。

記事内では別荘の具体的な名称こそ明記されていないが、掲載写真の建物外観や本文の内容から推察すると、倶知安町ニセコひらふ5条、国道5号線からニセコひらふに向かう道道631号線沿いの尻別川近くに位置する「パノラマニセコ」であると思われる 。余談だが、国道5号線と道道631号線の交差点付近にある伐採済みの平坦地は、以前『月刊財界さっぽろ』2025年2月号において、約4500坪に及ぶ無許可開発を指摘されていた土地である 。共同通信の記者は現地でフン・マリー氏の夫への接触に成功したという 。ただし、このパノラマニセコは分譲コンドミニアムであるため、実際にフン氏のプライベートな別荘としてのみ使われているのかは定かではない 。

フン・セン一族の別荘があると報じられた「PANORAMA NISEKO」の公式サイト。

フン・セン一族の別荘があると報じられた「PANORAMA NISEKO」の公式サイト。

フン・マリー氏がニセコで別荘を取得した真意は不明だが、犯罪収益で国家が運営されていたとまで囁かれるカンボジアの要人が、ニセコに拠点を構えているという事実は穏やかではない 。ニセコの開発が、マネーロンダリング、あるいは中国や香港などの富裕層による「(リゾート目的とは別の)逃げ道」として利用されているという話は、僕もこれまで時折耳にしてきた 。今回は公開情報のまとめとして、それらの事例を簡単に紹介したい 。

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少し古い話だが、2021年11月28日、マカオでジャンケット事業(カジノへ富裕層を勧誘し、宿泊等を手配する代理業)を手掛けていた「サンシティ・グループ・ホールディングス(太陽城集団)」の創業者アルビン・チャウが、越境ギャンブルと資金洗浄の疑いでマカオ司法警察に逮捕された 。

CEOの逮捕に伴い、マカオ全土に17か所あった同社のVIPルームはすべて閉鎖 。2023年1月18日、合計289もの罪状で起訴されたチャウ氏に対し、マカオの裁判所は162の罪を認定し、禁錮18年の実刑判決を下した 。民事裁判においても、チャウ氏を含む被告7名に、日本円で1000億円を超える賠償金の支払いが命じられている 。

このサンシティ・グループは、チャウ氏逮捕の10か月前にあたる2021年1月、倶知安町での高級リゾート開発計画を発表している 。同社はこれに先立つ2019年に沖縄県宮古島でのリゾート計画を、2020年には和歌山県でのIR(統合型リゾート施設)事業者公募への応募を行っていたが、中国本土や豪州で資金洗浄疑惑が浮上したことを受け、2021年に公募を辞退した 。チャウ氏の逮捕により、ニセコや宮古島のプロジェクトも立ち消えになった模様で、幸いにも本件は未遂に終わっている 。

和歌山県の事業者公募に呼応して開設されたサンシティ・グループの公式サイト(現在は閉鎖・インターネットアーカイブより)

和歌山県の事業者公募に呼応して開設されたサンシティ・グループの公式サイト(現在は閉鎖・インターネットアーカイブより)

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ニセコの活況を象徴するエリアといえば、もっぱら倶知安町ニセコひらふ、ニセコ東急グラン・ヒラフスキー場周辺の一帯である 。ハイシーズンの冬季には夜遅くまで煌々と明かりが灯る繁華なエリアだが、それとは別に、中国人富裕層の「移住地」となっている別荘エリアが存在する 。

道道66号線(ニセコパノラマライン)からニセコアンヌプリ国際スキー場へ上る入口付近にある別荘地がそれだ 。ここは中国人富裕層が出資し合って開発された場所であり、世界的な起業家として知られる某氏も別荘を保有しているほか、その親族が周辺で新規開発を進めている 。ちなみに僕は以前、このすぐ近くにある、英領ヴァージン諸島の私書箱を本店所在地とする法人が所有する「原野商法跡地」を動画で紹介したことがある 。

道道66号線・ニセコパノラマライン。(2024年12月撮影)

道道66号線・ニセコパノラマライン。(2024年12月撮影)

中国人富裕層の中には、帰国後の身の安全が保証できない立場、ありていに言えば帰国後に逮捕されかねない境遇に置かれている人がいて、ニセコ町の一部の別荘地はそうした中国人富裕層の移住先となっている。動画でも紹介したニセコ町字曽我の「差押ホワイトヴィラ」は、主に香港在住者に向けて民泊経営のための投資物件の触れ込みで分譲されたものだが、民泊経営による収益を見込んだ投資物件というよりは、日本への移住を希望する香港人が経営者ビザを取得する手段として購入されたもので、香港で宣伝されていた同ヴィラの物件広告にも「買楼可送移民或可日本永住権享福利(購入すれば日本への永住許可が取得できます)」の文言があった(現在は非公開)。

昨年10月に経営ビザの認可条件が厳格化され、今後は経営ビザ取得を目的とした華人系の民泊市場にも変化が起きる可能性があるが、ビザの問題とは別に、中国政府は以前から中国人の資産の海外持ち出しを厳しく制限している。ニセコエリアの高額の物件の購入をおおっぴらに口外することはできない。

経営ビザの取得を目的とした移住希望者に向けて分譲された民泊投資用の建売別荘。(ニセコ町字曽我・2024年10月撮影)

経営ビザの取得を目的とした移住希望者に向けて分譲された民泊投資用の建売別荘。(ニセコ町字曽我・2024年10月撮影)

ホワイトヴィラの販売宣伝用サイトより(現在は閉鎖)。「購入すれば永住許可が取得できる」とある。

ホワイトヴィラの販売宣伝用サイトより(現在は閉鎖)。「購入すれば永住許可が取得できる」とある。

昨年5月にゼネコンの岩田地崎建設によって事業主の破産が申し立てられた分譲コンドミニアム「ニューワールド・ラ・プルーム・ニセコリゾートホテル」は、高級リゾートホテルとは名ばかりで、実態はニセコ町内の個人商店の住所を借りて登記したペーパーカンパニーによる投資詐欺に過ぎなかったのだが、これも前金を詐取された購入者が表立って被害を訴えることができない中国人投資家固有の事情を熟知する者によって行われた詐欺であろう。

このプロジェクトは現在、別の事業者が引き継いでいるが、そこにも奇妙な話が絶えないため、詳細は後日動画で公開する予定だ 。当初の事業主であるヴァージニア株式会社の幹部らは、報復を恐れて行方をくらまし、香港で告訴されているという 。

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以上のように、ニセコの開発は、本来のリゾート理念とは無縁の、別の思惑によって突き動かされている実態が少なからずある 。そもそも、ニセコ開発の要である分譲コンドミニアムの売れ行きはコロナ前ほどの勢いはすでになく、高騰しすぎた後発の分譲コンドミニアムは在庫を抱えている 。現地を歩けば、「FOR SALE」の看板が長期間掲げられたままのコンドミニアムや売地を至る所で見かけるはずだ 。

ニセコは元々良質のスキーリゾートとしての確固たる地盤があるので、「ニセコバブル」がはじけて直ちに周辺一帯が廃墟化するなどとは僕も考えていないが、今なお新規の大型開発計画や分譲コンドミニアムの新築計画が絶えない状況を見ていると、果たして今のニセコは新規参入のタイミングとして適した時期なのか、と思わざるを得ない。

倶知安町旭で進められているリゾート計画の工事現場。開発許可申請後、しばらく工事が停止していたが、昨年秋に中国能源建設集団が新たな工事施工者となって工事が再開された。(2025年11月撮影)

倶知安町旭で進められているリゾート計画の工事現場。開発許可申請後、しばらく工事が停止していたが、昨年秋に中国能源建設集団が新たな工事施工者となって工事が再開された。(2025年11月撮影)

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